2月26日放送の「ミライ★モンスター」で特集されたのは、スピードスケートの稲川くるみ(17歳)選手。
道内指折りの進学校でありながら甲子園に5回も出場するなど、文武両道の名門として名高い、北海道は帯広三条高校の2年生。
3歳からスピードスケートを始め、数々の小学生大会で断トツの1位を獲得してきました。
昨年の全国高校選抜大会では、1年生ながら見事に優勝。
17歳でジュニアワールドカップ4位に入賞、同世代では無敵といっても過言ではありません。
現在では国内ジュニアランキング2位につけています。
これまでの日本女子スピードスケートの選手としては、1992年アルベールビル五輪銅メダルの橋本聖子選手や、1998年長野五輪銅メダルの岡崎朋美選手などが有名ですが、稲川さんもまた、2018年の冬季オリンピック(韓国・平昌=ピョンチャン)への出場も期待される、注目の逸材です。
今回は、そんな稲川さんの普段の練習風景と、この冬に挑んだ全日本ジュニアスピードスケート選手権での奮闘ぶりと結果をまとめてみたいと思います。
【目次】
★見出しタイトルの一覧です。
ブログの仕様上、リンクはできませんが、スクロールして興味ある個所からご覧ください。
1.稲川くるみさんは、普段はどんな練習をしているの?
① 帯広三条高校スケート部の監督は、オリンピック選手を3人育てた名将。
② 名監督が編み出した、帯広三条高校スケート部のユニークな練習方法とは?
2.稲川くるみ選手のスピードスケートにおける強みや弱点は何?
① 稲川選手のスピードスケーターとしての強み
② 稲川選手のスピードスケートにおける弱点
3.全日本ジュニアスピードスケート選手権に出場-世界ジュニア選手権への切符を手にすることができるか?
4.稲川くるみさん名言集
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1.稲川くるみさんは、普段はどんな練習をしているの?
稲川選手は、帯広三条高校のスケート部に所属。
毎日、国際大会も行われる日本有数のスケートリンク「明治北海道十勝オーバル」に通って練習しています。
① 帯広三条高校スケート部の監督は、オリンピック選手を3人育てた名将。
帯広三条高校のスケート部を指導するのは、後藤陽(ごとうあきら)監督。
後藤監督は、長野五輪金メダリストの清水宏保選手の同期で、現役時代は日本ランキング4位にもなりました。
指導者となってからは、太田明生・長嶋圭一郎・及川佑・各オリンピック選手を育てています。
② 名監督が編み出した、帯広三条高校スケート部のユニークな練習方法とは?
そんな名将のもと、とても立派なスケートリンクで練習ができる帯広三条高校ですが、実は一日のうちリンクが使用できるのはたったの1時間半のみ。
帯広市はジュニアスケーターの人口が高く、十勝オーバルのスケートリンクはいつも多くの選手でごった返しているからです。
そこで伊藤監督は、幾つか独自の練習法を編み出し、リンクでの実践練習に代って余りあるほどの効果的なトレーニングを取り入れています。
その一つは、斜めにした2枚のボードを、互いに斜面が向き合うように少し離して床に設置し、この上を片足ずつ真横に交互にジャンプする練習。
ボードが斜めに置かれているので、例えば右足で飛び移った瞬間、すぐに左足を出して反対側にジャンプしないと、バランスを崩して下に落ちてしまいます。
氷をタイミングよく蹴り出し、交互に足を滑らせて前進する、スピードスケートの基本的な動きがありますが、これに必要な瞬発力と筋力を付けるのに効果的だそうです。
あるいは、2つのバランスボールに足を乗せ、交互に体重を移動させるトレーニング。
上記のジャンプトレーニングで、お尻や足に乳酸がかなり溜まるので、その状態でうまくバランスを取る練習だそうです。
実戦のレースを想定し、身体に疲労の溜まった状態でバランス感覚を養うわけですね。
スケート靴の歯は1mmしかないので、体の力を効率よくスピードに変えるためのバランス感覚は、スピードスケートにおいて欠かせないものとなります。
もう一つは、低い台から床に軽く飛び降りて、そのまますぐに、前に置かれた高い跳び箱に両脚でジャンプして跳び乗る練習。
これも、スピードスケートのスターティングの際に必要となる、爆発的な瞬発力とそれをささえる脚力を養う効果があるそうです。
国内でも有数の名指導者のもと、数少ない本格的なスケートリンクを使用し、さぞ練習環境は恵まれているかと思いきや、実はこんな地道にトレーニングを工夫することでトップスケーターが成長しているのですから、やはり日々の小さな積み重ねが大事だということですね。
2..稲川くるみ選手のスピードスケートにおける強みや弱点は何?
① 稲川選手のスピードスケーターとしての強み
とにかく稲川さんは、スピードスケートに欠かせない素晴らしい“瞬発力”を持っているそう。
スケートにおいても、最初の100mがとにかく速く、500mや1000mといった短距離を得意とする典型的なスプリンターです。
この爆発的な瞬発力で、スタートダッシュから他の選手をあっという間に引き離してしまうのです。
② 稲川選手のスピードスケートにおける弱点
それに比べて、稲川選手に弱いのは“持久力”。
体力測定などを行っても、同世代に比べて持久力が圧倒的に弱いのだとか。
国内ランキング2位の選手に持久力がないというのも不思議な話に聞こえますが、これにはある理由があります。
稲川さんのこれまでの戦績を見ると、小学生時代は88大会に出場&優勝しているのに対し、中学時代はなんと0回、そして高校生になってからは5回です。
実は稲川さんは、中学1年のときに骨盤に疲労骨折を起こしてしまいました。
そのため2年生のときには全く練習できず、3年生になってからやっとリンクに復帰し始めました。
つまり、育ち盛りで基礎体力を付けるのに最も大切な中学時代に、スケートはおろか運動らしきことがほとんどできませんでした。
そのため、同世代の中でも際立って持久力が弱いのだそうです。
そして現在でも後遺症があり、例えば坂道を自転車で全速力で漕いで上るようなことはできないのだそうです。
自転車の坂道ダッシュと言えば、スケートや陸上、その他のスポーツ競技においても、持久力のもととなるスタミナや体力を付けるのに最も手っ取り早いの練習法の一つです。
しかしそのような身体的なハンデを抱えている稲川さんは、それの代わりとなるような他の練習を他の人よりもずっと数多くこなし、自らの弱点を少しでも補う努力をしています。
3.全日本ジュニアスピードスケート選手権に出場-世界ジュニア選手権への切符を手にすることができるか?
今年1月13日、山梨県の富士吉田市で行われた全日本ジュニアスピードスケート選手権大会。
ここで優勝を獲得すれば、2月に行われるフィンランドで行われる世界ジュニア選手権の日本代表に選出されます。
目標は、出場する全試合で優勝することだという、スケートに関しては本当に負けず嫌いの稲川さん。
この全日本選手権では、500m最終組で、現在ジュニアランキング1位である信州大学の学生、山田梨央(19歳)選手と同時にレースすることとなりました。
この大会のルールは至ってシンプルで、一人1回ずつ滑走してタイム順に勝者が決まります。
いよいよ最終走者の稲川選手と山口選手の出場。
結果は、持ち前の瞬発力で好スタートを切った稲川選手が、最初の100mの時点で0.13秒の差を付け、そのまま逃げ切り山田選手よりも早くゴールすることができました。
ランキング1位の選手に勝ったわけですから、ある意味勝利なのかもしれません。
しかし肝心のタイムのほうは、40秒81。
現在ランキング7位につけている盛岡工業高校1年生、熊谷萌(16歳)選手の40秒36に叶わず、今大会においては準優勝に終わりました。
大きな目標としていた、世界選手権への出場権は逃してしまいました。
試合終了後のインタビューで一言「(負けて)悔しいです」と答え、後ろを向いて涙ぐんだ稲川さん。
「とにかくどんな試合でも勝つ」ことが一番の目標である彼女にとっては、確かに悔しい敗戦となったでしょう。
しかしこれからも、その負けず嫌いをバネにして、より高いステージでの勝利を目指して成長を遂げていってくれることは間違いありません。
4.稲川くるみさん名言集
このリアルモンスターの放送を通じ、取材に応じる彼女の回答一つ一つが、持ち前の負けず嫌いをひしひしと感じさせる個性の強いものでありながら、同時に実年齢よりもずっと落ち着いた大人っぽさを感じさせるものでした。
17歳のトップアスリートでありながら、若さに乗った勢いよりも、むしろ冷静に人生全体を俯瞰するようなものの見方が印象的でした。
やはり、中学生の多感な時期に大怪我を負い、そのためにさまざまな苦労や忍耐を強いられながらも、長い時間をかけて乗り越えてきた経験が生きているのでしょうか。
最後に稲川さんが番組中でインタビューに答えた“名言”をまとめておきます。
――目標は何ですか?
「みんなそうだと思うんですけど、やっぱり (試合に) 出たら勝ちたいじゃないですか。だから、
出たら勝ちたいというのが目標です」
――今後の夢は何ですか?
「求められている答えとは違うかもしれないんですけど、
ずっとスケートを辞めないことです。一生続けることはできないんですけど、高校を卒業したり大学に入ってスケートを辞めてしまう人とかもいるじゃないですか。でも
辞めなければ、いつかきっと何かが起こると思うんです。だから、ずっと辞めずに続けていくことです」
――誰に勝ちたいですか?
「誰に勝つというよりも、
誰にも負けないくらい頑張ります」
――スピードスケートは好きですか?
「あんまり(笑) でも
朝ごはんを普通に食べるじゃないですか。夜は寝るじゃないですか。それと同じようなものかな。やらないとつまらないです」
スピードスケートを自分の日常そのものだと言い切る、稲川くるみ選手。
力まず弛まず、ずっとリンクの上で滑り続けて、人知れず幾つもの苦労を乗り越えてきた彼女らしい自然体で、いつか清々しい頂点に立ってほしいですね。
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