骨を強くする栄養素の代表格と言えば、なんと言っても「カルシウム」ですね。
けれども、ビタミンKやマグネシウム等、ほかの大切な栄養素やミネラルを忘れてカルシウムばかりを一生懸命摂っていると、実はかえって骨がもろくなり“骨粗鬆症”を引き起こすことにもなりかねません。
この記事では、骨や体におけるカルシウムの大切な働き、カルシウムの不足や偏りがもたらす「カルシウム・パラドックス」の危険性、そしてカルシウムや他のミネラルをバランスよく摂るためにはどのような食事をしたらよいか…等、カルシウムを巡るあまり知られていない大切な知識についてもお話ししたいと思います。
【目次】
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1.カルシウムが骨やからだを健康に保つ仕組み
① 骨に存在する“貯蔵カルシウム” の働き
② 血液や細胞に存在する“機能カルシウム” の働き
2.カルシウムが不足するとどうなるの?
① “機能カルシウム”の血中濃度は断固保持!その驚くべき身体の仕組みとは?
② カルシウム不足で骨がスカスカに…骨粗鬆症のリスク増大
③ カルシウム不足による「カルシウム・パラドックス」とは?
3.カルシウム不足に陥らないために気をつけたいこと
① 日本人は慢性的にカルシウムが足りない…どれぐらい不足しているの?
② 昔ながらの和食でバランスのよい食事を。
4.カルシウムとともに摂らねばならない大切なミネラルとは何?
① マグネシウム~カルシウムに拮抗して石灰化を予防
② カリウム~カルシウムの浪費を抑え、塩分も排出
5.カルシウムの効果的な摂取方法とは?
① カルシウムを多く含む食品を食べよう! 何があるの?
② カルシウムを補うのに牛乳がおすすめできない理由とは?
6.骨を強くする栄養素 関連記事のご案内
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1.カルシウムが骨やからだを健康に保つ仕組み
① 骨に存在する“貯蔵カルシウム” の働き
「カルシウムは骨を丈夫にする」という一般常識のとおり、カルシウムは骨や歯の主要成分であり、リン酸カルシウムや炭酸カルシウムの形で9割以上を占めています。
特に、骨中に存在するリン酸カルシウムの中に “ハイドロキシアパタイト” があり、これは非常に硬い物質で骨の約70%にあたり、身体を支える骨格としての強度を保つ基盤となっています。
また、骨には「カルシウムの貯蔵庫」としての役割もあり、ごく少量ではあるが細胞や生体の機能にも欠かせないカルシウムを、不足時には血液中に供給するという働きもしています。
② 血液や細胞に存在する“機能カルシウム” の働き
体内のカルシウムの99%は、骨に貯蔵されています。
しかし残りの1%は、全身の細胞内外に存在し、筋肉の収縮、脳や神経の情報伝達、血液の凝固など、生命維持に欠かせないあらゆる機能に関わっています。
例えば、筋肉を収縮させて身体を動かす動作は、カルシウムがトロボニンというタンパク質と結合することで起こります。
脳から神経を伝わってきた「筋肉を収縮させろ」という命令を受け筋繊維に放出されたカルシウムイオンが、通常は筋肉の収縮を抑制しているトロボニンと結合してこれを不活性化させることで、筋肉を動かすことを可能にしています。
また、神経の情報伝達のためには、アセチルコリンという情報伝達物質が細胞間を行き来することが必須です。
このアセチルコリンを細胞外へ放出するのがカルモジュリンと呼ばれるタンパク質ですが、このカルモジュリンと結合して活性化することにより、神経細胞間のメッセージのやりとりを可能にしているのがカルシウムです。
その他、血液が固まる作用は複数のタンパク質やカルシウムが次々と連鎖的に結合・活性化されることで起こります。
このようにカルシウムは、骨や歯の中ばかりでなく、微量ではありますが全身の血液や細胞内外に存在し、私たちの身体の日常的な生理機能に深く関わっています。
これらのカルシウムを、骨中の貯蔵カルシウムに対して「機能カルシウム」と呼び、これが不足すれば私たちは到底生きてはいけません。
2.カルシウムが不足するとどうなるの?
① “機能カルシウム”の血中濃度は断固保持!その驚くべき身体の仕組みとは?
血中や細胞内外に存在する機能カルシウムがいかに重要であるか、ここまで読んでお分かりいただけたことと思います。
要するに、機能カルシウムの血中濃度が必要量を下回ると、組織や器官におけるさまざまな生理機能が正常に働かなくなる恐れがあります。
ですので私たちの身体には、この機能カルシウムの血中濃度を厳密に管理・維持するための精巧なシステムが存在しています。
それは、もし食事など外からのカルシウム供給が少ないために血中のカルシウム濃度が低すぎる場合には、私たちの身体はそれを回復すべく、骨や歯に蓄えられている“貯蔵カルシウム”を取り出して全身に補給するというものです。
詳しく言えば、カルシウムの血中濃度が一定量を下回ると、副甲状腺ホルモン (PTH) が分泌されて、骨からカルシウムを溶かし出して血液中に放出する“骨吸収”という作用を促進します。
またPTHは、腎臓から尿とともに排出されそうになっているカルシウムの再吸収を促す働きもあります。
そして、カルシウム濃度が再び回復すれば、今度は甲状腺から別のホルモン (カルシトニン)が分泌され、 骨吸収を抑えてカルシウムを骨へ沈着させたり、カルシウムの尿中への放出を促したりします。
このように、生命の健全な維持に直接関わる“機能カルシウム”の濃度を、常に不足のない状態で保つようなシステムを私たちの身体は備えているのです。
② カルシウム不足で骨がスカスカに…骨粗鬆症のリスク増大
このように、血液中のカルシウムは必ず一定量を保持しなければならないため、少しでも不足があればすぐに骨の中から溶かし出されるように身体は機能しています。
つまり、食事からのカルシウムの摂取が少なすぎると、その分骨からカルシウムが取り出されて血中の機能カルシウムに回され、骨中のカルシウム量がどんどん少なくなり、骨はスカスカになりもろくなってしまうというわけです。
このような状態だと、例えばちょっと転んだだけで骨折したり、骨が砕けてしまいます。
これがいわゆる“骨粗鬆症
(こつそしょうしょう)”です。
そのため、骨を丈夫に保つには、機能カルシウムの不足により骨から過剰のカルシウムが溶かし出されることのないように、日頃から意識してカルシウムの多い食品を摂取することが欠かせません。
③ カルシウム不足による「カルシウム・パラドックス」とは?
また、カルシウムが足りない食生活を長く送っていると、血液中のカルシウム不足を防ぐために常に副腎皮質ホルモン(PTH)が分泌され続けることになります。
そうすると、骨に貯蔵されているカルシウムが絶え間なく溶かし出される一方で、血中には多くのカルシウムが溢れ、行き場を失った余分なカルシウムが血管内や組織に沈着して石灰化し、結石や動脈硬化・心疾患など深刻な生活習慣病の原因となります。
これが、カルシウムの摂取不足によって起こる「カルシウム・パラドックス」という状態であり、現代の食生活が招きやすい健康上の大きな問題となっています。
カルシウム・パラドックスとは、血管や内臓などカルシウムが溜まってはいけない箇所にカルシウムが溜まって問題を起こしているのに、肝心の骨にはカルシウムが足りなくなって骨が弱くなっている状態のことです。
3.カルシウム不足に陥らないために気をつけたいこと
① 日本人は慢性的にカルシウムが足りない…どれぐらい不足しているの?
カルシウムの摂取量自体は、むしろ日本人はずっと不足気味だと言われています。
一日に摂取すべきと推定されるカルシウムの必要量や推奨量よりも、実際に私たちが摂っているカルシウム量はかなり少ないのです。
例えば30~39歳の大人でみると、日本人は平均して推定必要量の約4/5、推奨量の約2/3ほどのカルシウムしか一日に摂取できていません。
(厚生労働省
『日本人の食事摂取基準』と
『平成27年 国民健康・栄養調査報告』を参照)
② 昔ながらの和食でバランスのよい食事を。
カルシウムの効果を体内できちんと生かすためには、カルシウムだけではなく他の栄養素やミネラルもバランスよく摂ることが欠かせません。
特に、カルシウム・パラドックスを予防するのに関わりの深いミネラルとして、マグネシウムとカリウムが挙げられます
(後に詳述)。
これらのミネラルは、魚介類、ほうれん草などの野菜、昆布やひじきなど海藻、里芋やさつまいもなどのイモ類、大豆やいんげん豆、小豆など豆類、玄米などに多く含まれますので、こういった食品を意識して毎日の食事に取り入れることが大切です。
(カリウムは肉類にも多く含まれていますが、肉はしばしば過剰摂取に陥りやすく、下記『カルシウムを補うのに牛乳を飲むのがおすすめできない理由』で詳しく述べますように、高タンパク食がカルシウム・パラドックスを招く可能性が多くの研究からも示唆されている現状がありますので、カリウムの供給源としてはここではおすすめしません)
魚や野菜、海草、大豆食品 (豆腐や味噌) 等を最も効率的においしく食べられる食事と言えば、やはり昔ながらの和食でしょう。
このような食品からは、カルシウムも過不足なく摂取できます。
脂質も少なくヘルシー、さまざまな栄養素やミネラルがバランスよく摂れるメニューとして、魚の煮付けや野菜の和え物、海草や豆腐を入れた味噌汁といった伝統的な日本の家庭料理は、やはり多くの海外料理に比しても最も健康的で理想的な食事と言えるのです。
4.カルシウムとともに摂らねばならない大切なミネラルとは何?
カルシウムは、他のミネラルや栄養素とともにバランスよく連動して初めて、体内で順調に機能する成分です。
カルシウムとともに骨の健康をサポートするビタミンDやKも大切ですが、ここでは特に、カルシウム・パラドックスのリスクを低めるのに欠かせない2つの重要なミネラルについてご説明したいと思います。
① マグネシウム~カルシウムに拮抗して石灰化を予防
マグネシウムは、細胞内に流入するカルシウム量を適切に調節したり、少量でも強力に働くカルシウムの作用が行き過ぎないように拮抗し、過度の血管収縮や血液の凝固を抑えるという大切な役目を果たしています。
ですので、幾らカルシウムばかりをたくさん摂っても、マグネシウムの摂取が不足してしまうと、血管内の過剰なカルシウムが血管組織や細胞内に入り込むのを防ぐことができず、そこに沈着したカルシウムが石灰化してしまう「カルシウム・パラドックス」を招いてしまいます。
マグネシウムもまた、カルシウムと同じく大切な骨成分の一つです。
骨の健康を守るためにもマグネシウムの適度な摂取が欠かせません。
マグネシウムと骨&カルシウムとの関係については、下記の別記事に詳しくまとめてありますのでご覧ください。
マグネシウムはCaよりも意識して!骨を強くする栄養素を120%詳解
② カリウム~カルシウムの浪費を抑え、塩分も排出
また、カルシウム・パラドックスの原因の一つとして、タンパク質の摂りすぎ等により体内が酸性に傾いたとき、これを中和するために、アルカリ性であるカルシウムが骨から取り出されて使われることが推測されています。
そこで、食事からカリウムを適度に摂取することが勧められます。
食品中に含まれるカリウムには、カルシウムの代わりに血液中の酸を中和する働きがあるため、カルシウム・パラドックスを予防するために野菜や果物などカリウムを多く含む食品を積極的に食べるのが望ましいのです。
また、塩分に含まれるナトリウムの過剰摂取は、カルシウムの腎臓における再吸収を妨げてカルシウムの排出を促してしまうことが知られています。
そこで、塩分摂取を控えるとともに、このナトリウムの排出を促してくれるカリウムを適度に摂ることが、体内のカルシウム不足を避ける効果的な方法の一つです。
5.カルシウムの効果的な摂取方法とは?
① カルシウムを多く含む食品を食べよう! 何があるの?
大根葉、ひじき、ごま、煮干し。
牛乳に×印を付けてある理由は、後ほど説明します。
大根葉をはじめ、小松菜・ケール・水菜など緑色の葉物野菜にカルシウムは多いです。
それから、煮干し、干しエビ、めざし、しらすぼしなど乾燥させた魚介類。
また、ししゃも、わかさぎ、さばやイワシの缶詰など、骨ごと食べられる魚類はカルシウムがたくさん摂れます。
ひじきは、100g当たり1000mgのカルシウムが含まれていて、海藻の中でもトップクラスです。
ただし、一度に食べられる量が限られているので、他のカルシウム食材も併行して食べましょう。
ごまも、100g当たり1200mgの含有量で、他のナッツ類と比べても圧倒的。
しかし、やはり一度にたくさん食べられる食品ではありません。
野菜のお浸しやきんぴらに常にすりごまを和える、お豆腐にまぶすなど、食べ方はたくさんありますので、毎日少しずつ摂るようにしましょう。
② カルシウムを補うのに牛乳がおすすめできない理由とは?
カルシウムが摂れるといえば牛乳でしょ? と考える方も多いかもしれません。
しかしこの記事では、カルシウムを供給するために牛乳をたくさん飲むことは、決してお勧めしません。
その主な理由を2つ、次に述べたいと思います。
理由その1~牛乳にはタンパク質が多すぎる。
ご存じかと思いますが、牛乳は代表的な高タンパク食品です。
上にも少し触れましたが、タンパク質の過剰摂取はカルシウムの排出を促すことが指摘されています。
結果として牛乳を飲み過ぎるとかえってカルシウム不足を招く恐れがあります。
その機序としては、タンパク質から生じる含硫アミノ酸が血液を酸性に傾けるため、これを中和するためにアルカリ性であるカルシウムが骨から溶かし出され、そのまま排出される…ということが専門の科学者の間で推測されています。
これはまだ、科学的な根拠を持ってきちんと解明されたものではありません。
しかし、タンパク質を多量に摂ることにより、尿を通して排出されるカルシウムの量が増えることは、数多くの研究データによって事実と認められています。
あるいは似たような研究が世界各国にたくさん存在することから、中にはこの事実とは異なる結果が現れた研究も、探せば見つからないことはないです。
そのような数少ないデータを取り上げて、タンパク質の摂りすぎが骨に悪影響を及ぼすことを否定し、高タンパク食を擁護するサイトもちょくちょく見かけます。
また、専門家の中には「タンパク質を多く摂れば腸からのカルシウムの吸収がよくなるので、たとえ尿中の排出量が増えても相殺されるため、さほど問題ではない」と主張する方もいます。
けれども、本当に尿からの排出量と同程度に腸からカルシウムの吸収量が増えるのか、あるいはそれ以上なのか、以下なのか、その辺の度合いもはっきり分かっていません。
2007年に開かれた、FAO(国連食糧農業機関)、 WHO(世界保健機構)、UNU(国際連合大学)による合同専門家協議の中で、人体の栄養におけるタンパク質とアミノ酸の必要量について協議が行われ、その結果が報告されました。
その報告書の中で、タンパク質に含まれる含硫アミノ酸による酸負荷を中和するために骨中のカルシウムが利用される可能性の高いこと、そして、これらの酸を中和するアルカリ化作用の高いカリウムを多く含む果物や野菜の摂取が、骨の健康によい影響を及ぼすことが述べられています。
※参考:
タンパク質とアミノ酸の必要量 FAO/WHO/UNU合同専門家協議
(リンク先の「WHO_TRS_935_jpn.pdf」をダウンロードしてください)
なお上記の報告書にも述べられているように、適度なタンパク質の摂取は骨の健康に有益です。
大事なのは、タンパク質ばかりを偏食しないこと、過度な量を摂らないこと、野菜など植物性食品も不足なく食べることです。
したがって、骨を始めからだ全体の健康を保つには、バランスのよい普通の食事で十分だということが分かります。
カルシウムを補給する目的でわざわざ牛乳を余分に飲むことは、タンパク質の過剰を招いてかえって骨を弱くしてしまうことにもなりかねません。
理由その2~牛乳には動物性脂肪も多い。現代の畜産事情にも多くの問題が…。
そもそも牛乳やチーズ、生クリームなどの乳製品には、肥満や動脈硬化の原因になりやすい飽和脂肪酸が多いので、できれば摂取を控えたい食品群の一つです。
また畜産業における現状を見ても、狭い飼育舎にすし詰めにした家畜に遺伝子組み換えや農薬漬けのエサを与え、絶えず抗生物質を投与されている…等、肉類だけでなく乳製品も決して安心・安全な食材とは言い難いように思います。
牛乳を飲むにしても飲まないにしても「牛乳=健康食品!」という図式からは脱却しておきましょう。
牛乳や乳製品には、他では味わえない独特の風味やコクがあり、それ自体はとても魅力的な食材です。
またタンパク質が豊富なゆえ、成長ホルモンの分泌を促し、骨量を増やす働きもあります。
特に成長期の子供にとっては、給食で出されるコップ1杯程度の牛乳を飲むことは、メリットも少なくないかもしれません。
けれども、特に成人した大人にとっては、過剰摂取にくれぐれも注意が必要です。
元から純粋に牛乳が好きでおいしく飲みたいという方は、ときどき嗜好品として飲む程度は構わないでしょう。
カフェオレにしたり、シチューやクリーム煮などお料理に利用するのもよいと思います。
ただ、従来から根強い「牛乳の健康食品説」なるものを固く信じるがために、毎日ノルマを決めて無理をして飲んだり、苦手なのに健康意識から習慣化したりする必要は全くありません。
それよりもむしろ、日頃の食生活をできるだけ和食に近づけたバランスのよいものにすることが、本当に健康な身体をつくるための一番確かな近道です。
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