近年、チョコレートやココアに含まれるカカオの効能が注目され、特にカカオポリフェノールには、血管機能を改善して血圧を下げたり、心臓病や脳卒中など心血管疾患を予防する効果が期待できるということが、各国の研究データから示されつつあります。
先日の記事では、カカオの効能に関する最も有名な疫学研究として、パナマの先住民族クナ人を調査したハーバード大学のスタディをご紹介しました。
ダークチョコレートやカカオで高血圧や心臓病の予防効果!?パナマでの研究をご紹介
今回の記事では、カカオの効能を示唆した疫学研究の中から、もう一つ、本格的な追跡調査をご紹介したいと思います。
これは、世界的に有名なアメリカの生理学者、アンセル・キーズ氏が中心となって行った「七ヶ国共同研究」の一環として、オランダ・ズトフェンの高齢者を15年にわたって追跡したものです。
※この記事でご紹介する研究の原典としての論文は↓こちらです。
JAMA Network “Cocoa Intake, Blood Pressure, and Cardiovascular Mortality”
※また、参考となる日本語で分かりやすいサイトは↓こちら。
日経メディカル「ダークチョコレート10g分のカカオを摂り続けると、心血管死とあらゆる原因による死亡リスクが半減する」
【目次】
★見出しタイトルの一覧です。
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1.オランダ・ズトフェンで高齢者を追跡調査-カカオの摂取で高血圧・心臓病・あらゆる死因リスクが減少
① どんな研究?
② 研究の具体的な内容
③ 研究の結果
④ この研究の信憑性は?
⑤ 1日にどれくらいのチョコレートを食べれば、このような効果が期待できるの?
2.【まとめ】カカオに効果が期待できるのは事実かも。でもチョコレートの食べ過ぎには注意して。
3.カカオ・チョコレートの効果効能など関連記事のご紹介
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1.オランダ・ズトフェンで高齢者を追跡調査-カカオの摂取で高血圧・心臓病・あらゆる死因リスクが減少
① どんな研究?
この研究は、かの有名な「七ヶ国共同研究」をさらに継続して行われた『ズトフェン高齢者研究 (The Zutphen Elderly Study)』の一環です。
七ヶ国共同研究 (The Seven Countries Studies) とは、1950年代から活躍していたミネソタ大学の生理学教授アンセル・キーズ氏が、各国の研究者に仲間を募って1958年から開始された、心血管疾患と栄養摂取との関わりを世界7ヶ国にまたがって約20年間、疫学調査したものです。
高血圧や動脈硬化に始まり、血管の炎症・老化で引き起こされる心臓病や脳卒中は、当時からアメリカ人の死因を大きく占める病気であり、これらの予防や改善法の確立がアメリカの国家的な急務となっていたのです。
※ アンセル・キーズ氏や「七ヶ国共同研究」、また心血管へ悪影響を及ぼす食品は何かの議論において、アメリカで半世紀にわたり繰り広げられた脂質vs.砂糖の攻防については、↓↓こちらの別記事をどうぞ。
このキーズ氏のグループによる世界にまたがる25年間の研究において、肉や乳製品に多く含まれる飽和脂肪酸の摂りすぎが、心臓病や冠動脈疾患など重大な血管疾患の主要な原因となり得ることが明らかにされました。
さらにこの七ヶ国共同研究は、心血管疾患を引き起こす要因を究明する25年もの調査が終了したのち、追跡対象者が高齢化したため、以後は心血管疾患に限らず高齢者の健康全般に視点を広げ、食生活を含めた生活習慣との関連性を研究するべく追跡調査が継続されました。
そのうち、オランダでの研究を引き継いだ「ズトフェン高齢者研究」は、オランダ・ヘルダーラント州のズトフェンという町で、約470名の高齢者を対象に1985~2000年まで15年間実施されました。
この「ズトフェン高齢者研究 (The Zutphen Elderly Study)」において、この研究に携わったオランダ国立公衆衛生環境研究所のBrian Buijsse氏が、
カカオの摂取により血圧が下がること、また心血管疾患による死亡率、およびあらゆる原因による死のリスクが減少することを、調査の結果として発表しています。
※ 参考資料:
日経メディカル「ダークチョコレート10g分のカカオを摂り続けると、心血管死とあらゆる原因による死亡リスクが半減する」
Seven Countries Study"Healthy ageing"
Seven Countries Study"Chocolate and cardiovascular disease"
② 研究の具体的な内容
小規模で短期間の介入試験 (例えば被験者を10人ずつの2グループに分け、1つのグループにはチョコレートxg、もう一つのグループには同様のプラセボチョコを毎日食べることを2週間続けてもらい、摂取前と後の健康状態を比較する等) においては、カカオ製品の摂取によって血管内皮機能が改善して血流がよくなる、あるいはインスリン感受性が増して血糖値が下がる…等、ヒトの健康に有益な効果が現れるというデータが幾つも示されています。
ただしそのような研究結果だけでは、長期間摂取した場合の効果の有無や、その他のからだへの影響、また個人差によらず誰にとっても効果があると言えるのか…等の疑問が残ります。
また、このようなカカオの効果が具体的にどの程度のものなのか、心臓病や糖尿病など重大な血管疾患の発症リスクを低減できるまでに至るのかどうか、それも判然としません。
さらにこの種の実験においては、被験者に毎日100g (一般的な板チョコは1枚約50g) 以上という多量のチョコレートを食べてもらうなど、一般的な人々の食生活にその結果を応用するにはあまりにも非現実的と思われるケースも少なくありません
それに対して、上記「七ヶ国共同研究」を引き継いだこのズトフェン高齢者研究においては、研究者が介入することなく、オランダの一つの町ズトフェンに住む住民から慢性疾患のない470人の高齢者に参加してもらい、聞き取りや食料の購入状況からカカオの摂取状況を調査した上、15年もかけて彼らの生活や健康状態を追跡し、途中で死亡したケースについてはその死因をデータに加えて分析したものです。
カカオの摂取状況については、研究の始まった1985年における食事調査では、対象者の1/3がカカオを摂取しておらず、対象者を調査から推測したカカオの摂取量に応じて以下のような3つのグループに分けました。
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データ数 (人数) |
カカオ摂取量の データ範囲 (g/日) |
カカオ摂取量の 中央値 (g/日) |
① 最高三分位群 (カカオの摂取量が最も多いグループ) |
156 |
2.90 - 6.10 |
4.18 |
② 第2三分位群 (カカオの摂取量が中間的な範囲のグループ) |
149 |
0.60 - 1.45 |
0.92 |
③ 最低三分位群 (カカオの摂取がほとんどないグループ) |
165 |
0 - 0 |
0 |
そして、調査開始時の1985年に対象者全員の健康状態と食生活・その他の生活習慣を調査してベースラインとし、以後90年、95年、2000年の3回にわたって同様に調査、これを上記3つのグループに分けて比較分析しました。
ちなみに、彼らのカカオ摂取の約2/3はチョコレートによるものとされています。
③ 研究の結果
カカオの摂取により、血圧が低下。
得られたデータを、血圧に関連する主要な交絡因子
(※) による影響が出ないように調整すると、結果は下表のようになり、カカオの摂取量は最大血圧および最小血圧と逆相関の関係にあることが分かりました。
(※) 交絡因子… |
調べようとする要因以外のもので、その病気の予防および改善や悪化に影響を与えるような要因となり得るもの。
例えばこの調査では、ココア摂取以外に血圧の高低に影響を及ぼしそうな「年齢・BMI・食生活・身体活動・飲酒や喫煙・アスピリンや抗血液凝固剤の使用」等の因子について調整した数値を示しています。 |
血圧の平均値 (mmHg) ※カッコ内はデータの範囲
|
最大 (収縮期) |
最小 (拡張期) |
① 最高三分位群 |
146.5 (144.0-149.1) |
82.3 (80.9-83.7) |
② 第2三分位群 |
149.0 (146.7-151.3) |
83.8 (82.5-85.1) |
③ 最低三分位群 |
150.2 (147.7-152.8) |
84.4 (83.0-85.8) |
①-③ |
-3.7 |
-2.1 |
つまり、①の最もカカオ摂取の多いグループは、③のほとんどカカオを摂らないグループに比較して、
最大血圧が平均で3.7mmHg、そして最小血圧が平均で2.1mmHgも低い ことが分かります。
日本人における70歳代男性の血圧平均値は、最大血圧が144.1mmHg、最小血圧が86.8mmHgです (2010年)。
なお日本高血圧学会は、前期高齢者
(65~74歳) の降圧目標を診療室血圧で 140/90mmHgと定めています。
こうして見ると、
収縮期血圧-3.7mmHgという違いがいかに大きくて重要であるか が分かるのではないでしょうか。
ちなみに上記のオランダにおける高齢者の平均血圧値 (特に収縮期) は、日本人に比べると①の最高三分位群の数値でさえかなり高めだと感じますが、もともと北欧は世界的にも血圧の高い地域であることを考慮すればよいと思います。
心血管疾患およびあらゆる病気による死亡リスクが低下。
1985~2000年の間の追跡調査中に、314人の対象者が死亡しました。
そしてこのうち152人の死因は、心血管疾患によるものでした。
彼らの生前のデータと死因を解析したところ、カカオ摂取量の増加に伴って、心血管疾患による死亡、そしてその他のあらゆる死亡リスクが減少することが示されました。
この結果が、以下の表です。
上記の血圧に関するデータと同様、年齢やBMI、生活習慣などの交絡因子を調整してあります。
心血管疾患およびあらゆる原因による死の相対リスク ※③の数値を“1.00”とした場合
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③ 最低三分位群 |
② 第2三分位群 |
① 最高三分位群 |
心血管疾患による死 |
1.00 |
0.70 |
0.50 |
あらゆる原因による死 |
1.00 |
0.73 |
0.53 |
心臓病や血管疾患ばかりでなくあらゆる原因による死亡のリスクが、
③のカカオをほとんど摂らないグループと比べて、
①のカカオ摂取量が高いグループはおよそ半分の割合にまで減っています。
②のカカオ摂取量が控えめのグループにおいても、やはり③と比較すると約7割にまでリスクが減少しているのが分かります。
先にも述べましたように、この研究では身体活動や食習慣の違いなど、カカオ摂取以外に発症リスクを左右するかもしれない要因については極力調整を施してからデータを出してあります。
しかし、それでも完全に影響を排除できるとは言い切れない可能性についても、この研究に携わった専門家は論文の中で言及しています。
その辺りの事情については下記のリンク先 (この論文の原文) に詳細が書かれています。
気になる方は当たってみてください。
JAMA Network“Cocoa Intake, Blood Pressure, and Cardiovascular Mortality The Zutphen Elderly Study”
とりあえず主要な交絡因子は可能な限り取り除いたデータですので、カカオの効能のほどを理解するためなら大いに参考になる研究だと思います。
④ この研究の信憑性は?
先にも述べましたように、この研究は「ズトフェン高齢者研究」の一環です。
ズトフェン高齢者研究とは、世界的な生理学者アンセル・キーズ氏によって始められた「七ヶ国共同研究」という有名な追跡調査の延長線上にあるスタディです。
研究に当たったのは、オランダ国立公衆衛生環境研究所に勤務するBrian Buijsse氏らのグループです。
また、七ヶ国共同研究に資金提供しているのは、下のリンク先を見ても分かりますように、健康や公衆衛生の問題に携わる公的機関ばかりです。利益を共有するメーカー関連は一切ありません。
Seven Countries Study"Sponsors"
このように公共的色彩が極めて強い研究であること、また15年間も費やし、研究者の介入なしに行われた純粋な観察研究であること、さらに、最初からカカオ摂取の効能の調査を目的とした研究とは異なり、考えられる様々な因子の中から心血管疾患に関わるものを突き止めるべく、コホート (研究に参加する集団) の心臓や血管などの健康状態、食事内容、生活習慣など、影響があると推測されるあらゆる要因について幅広く調べ上げていること等から、
他にも多数あるカカオ関連の研究の中でも最も信頼に値する研究結果であると思われます。
※参考資料:
日経メディカル「ダークチョコレート10g分のカカオを摂り続けると、心血管死とあらゆる原因による死亡リスクが半減する」
JAMA Network “Cocoa Intake, Blood Pressure, and Cardiovascular Mortality”
The Seven Countries Study “Chocolate and cardiovascular disease”
⑤ 1日にどれくらいのチョコレートを食べれば、このような効果が期待できるの?
このオランダの研究では、カカオの摂取量が最も多いグループにおけるカカオ摂取量には個人差がありましたが、全体の中央値は 4.18g/日 でした。
つまり単純に考えれば、1日に約4g強のカカオを摂取すれば、上記の調査結果に表れたような効果が期待できることになります (あくまでも参考です)。
カカオを全く摂らないケースと比べて、血圧の上昇を抑えたり、心血管死やその他の病気による死のリスクを低減したり…といったようなことです。
約4g強のカカオといえば、ビターチョコレートやダークチョコレートと呼ばれるカカオ分の多いチョコレートの、およそ 10g に含まれるカカオの量に相当します (カカオ分が40%以上含まれるチョコレートを、ビターチョコレートやダークチョコレートと称します)。
チョコレート10gがどのくらいかと言えば、いわゆる一般的な板チョコがおよそ50gですので、その1/5程度ですね。
意外と少ない量で十分なのです。
つまりチョコレートに含まれるカカオに効果があるからと言って、チョコレートをたくさん食べればよいというわけではなく、
板チョコ (ビター) 1/5 程度を毎日食べ続ければある程度の効果が期待できる…ということが研究の結果から示唆されたわけです。
もちろんカカオ成分が身体に良いわけですから、チョコレートに限らずココアを飲んだり料理に利用したり、あるいはカカオニブやカカオ豆を食べる…などの摂り方も考えられます。
2.【まとめ】カカオに効果が期待できるのは事実かも。でもチョコレートの食べ過ぎには注意して。
ここでご紹介したオランダの高齢者研究や、
パナマにおけるクナ民族の疫学調査、あるいは各国で行われた多数の臨床試験による結果から、カカオ豆に含まれるポリフェノールなどの成分には、高血圧・心臓病・脳卒中など種々の血管疾患を予防する効果が期待できると見ることも可能なのではないかと思います。
けれども、毎日カカオを摂るとすれば、できればカカオニブやカカオ豆を利用するなど、なるべく砂糖なしで自然のままのカカオポリフェノールを摂取したいですね。
カカオポリフェノールの摂取を目的としてチョコレートを毎日少しずつ食べるのであれば、普通の甘いチョコレートではなく、多少苦くてもやはりカカオ含有量の高いチョコレートをお勧めします。
甘いチョコレートは、食べ過ぎはよくないと分かっていてもついついたくさん口に入れてしまいがちですよね。
一方、カカオ分70~80%のものになると、同じチョコレートでもわずかな苦みの違いがほどよいブレーキとなり、1~2片も食べれば満足してストップすることができるのです。
チョコレートの“摂りすぎ”が身体に良くないという事実は、従来から全く変わっていないことに注意が必要です。
そしてそれは、ビターやダークのチョコレートも同様です。
この点については
国民生活センターが警告を発しています。
この警告の主な内容や、高カカオチョコレートを1日の摂取量(大人の女性)については、下記の別記事にまとめましたのでご参考ください。
オススメ! ダークや高カカオチョコレートも食べ過ぎは危険!1日の摂取量は?
3.カカオ・チョコレートの効果効能など関連記事のご紹介
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