2月6日放送の「ミライ★モンスター」で特集された、
中学3年生のアーチェリー選手、黒田零音(れおん)さんは、東京都が実施する『トップアスリート発掘・育成事業』の第7期生としてプログラムを修了した一人です。
番組では、この東京都の『トップアスリート発掘・育成事業』についても詳しく紹介されました。
将来、オリンピックや世界選手権など、スポーツの国際舞台で活躍できるトップアスリートを育成すべく、隠れた才能を持つ地元のジュニア選手を発掘し、一流の専門コーチが担当して計画的なトレーニングプログラムを遂行する事業は、東京都のみでなくあちこちの都道府県で行われています。
東京オリンピックを控え、国民全体の競技力を向上させるとともにスター選手を輩出し、素ホーつによって日本全体を活気づける試みが、今、地方でも大変熱いようです。
この記事では、2月6日のミライモンスターの放送を参考に、東京都が行う『トップアスリート発掘・育成事業』について、その目的や具体的なプログラムの内容、そして本当に効果を上げているのか? 修了生たちの活躍ぶりなどを分かりやすくまとめてみたいと思います。
1.『トップアスリート発掘・育成事業』の目的・ねらいは何?
東京都の『トップアスリート発掘・育成事業』は、2013年に行われた東京国体に向けて、2008年から第一期生を募集し、事業がスタートしました。
その後、2020年の東京オリンピック開催が決定してからは、特にオリンピックに出場できるようなエリート選手の養成を目指した一大プロジェクトとなっています。
都内から中学生を対象に運動能力の優れた人材を発掘し、特にまだ日本では競技人口の少ないマイナーな種目を狙って力を付け、オリンピックを始め世界的に活躍できるトップアスリートとして育てるべく、基礎的な運動能力、実技力からスポーツ情報・科学など総合的な知識力に至るまで、指導環境を整えて一貫したトレーニングプログラムを東京都が施策として提供・支援する事業です。
世界各国が国を上げてスポーツ支援に取り組む現代、日本でも競技力の向上が大きな課題となっています。
そんな中、例えば野球やサッカー、陸上など競技者の多い種目では、せっかく高い運動能力を持っていても、一部の超エリート選手の陰に埋もれて日の目を見ないまま終わってしまう選手もいるかもしれません。
そんな、メジャー種目では活躍のチャンスに恵まれないが優れた潜在能力を持つジュニアを発掘し、あえて競争率の高くない種目で専門的な訓練を積み実力を養えば、世界に通用するトップ選手となることも夢ではないのです。
そのような選手がオリンピックや世界大会で活躍し、一躍名の知れたいわゆるスポーツタレントとして広告塔ともなれば、その競技に関心を持ったり自らも始める国民が増え、結果として国全体の競技力向上も期待できます。
2020年に東京オリンピックを控えることもあり、そのような長期的なスポーツ発展の視野に立ち、れっきとした公的施策としてジュニアアスリートの育成に取り組んでいる都道府県は、東京都だけでなく、福岡県、山口県、岡山県、北海道、秋田県、岩手県など数多くあります。
2.『トップアスリート発掘・育成事業』の具体的な内容は?
①募集と選考のしかた
東京都の『トップアスリート発掘・育成事業』の場合について説明します。
まず、毎年、都内の全中学校およそ800校に募集を告知します。
そして第一次選考では、書類審査による体力テストで、上位から120名ほどを選考。
次に第二次選考で、実技審査を実施してそこから50名程度に絞ります。
最後に第三次選考で、実技審査と面接によって最終的に約30名を選考し、合格とするのです。
都内全中学生の希望者のうち、最後に残るのはわずか30名ですから、本当に狭き門です。
やはり合格者は、それ以前から何かの運動部に所属し学校や地域で活躍するなど、スポーツ経験が豊富で運動能力のとても高い子が多いようです。
②プログラムの年間スケジュールは?
上記のような厳しい選考をクリアした約30名の合格者は、その後1年間にわたり、トップアスリートとしての資質を身に付けるため、次のようなプログラムを履修します。
5~6月:スポーツ教育プログラム
トレーニングプログラム
競技体験プログラム
8月:競技選択面接
9~10月:競技別専門プログラム
スポーツ教育プログラム
トレーニングプログラム
1~2月:最終面接
卒業
自分が取り組む種目を選択した後は、その競技に特化した実技練習も行いますが、それだけでなく、スポーツ全般を行うに当たっての基礎的な体づくりや、知識として必要なスポーツ科学・情報学などの基本を学ぶ講義も、プログラムの一環として組み込まれているようです。
③ プログラム内容の具体例を幾つかご紹介します。
グループディスカッション
ミライモンスターの番組中では、研修室らしき部屋で受講生たちがグループ・ディスカッションに取り組む場面がありました。
講師を務めていたのは、仙台大学体育学部スポーツ情報マスメディア学科、粟木一博教授。
この講義では、スポーツにおいて生じるさまざまな問題について、中学生である受講生が自ら考え、答えを出すという課題に取り組むようです。
番組中では、1992年夏の甲子園で松井秀喜選手が5打席連続で敬遠されたという伝説的な話題を取り上げ、この作戦が果たして高校球児たちの甲子園大会で認められてよいのかどうかを、4~5人のグループをつくって議論し、順番に発表。
まだ中学生とはいえ、さすがに将来のトップアスリートと目される受講生たち。
「高校野球にふさわしくない。理由は、正々堂々と試合をしていないから」
「プロとは違い、学生が取るべき作戦ではない」
「教育の一環としてふさわしくない」
「選手のプライドが傷つく」
等、スポーツ倫理に深く踏み込んだ答えが多く出されました。
講師の粟木教授は、
「こういう問題をたくさん生み出してくれることが、実はスポーツの価値なんじゃないかと思います。スポーツの価値はどういうところにあるんだろうか、それを考えるためのプログラムの一つです」
と述べていました。
トップアスリートになるということは、単に強い競技力をつけるだけではなく、このようにスポーツを通して人間的な資質をも大きく育て、人々にとって競技における夢や希望のみでなく、人生そのものの模範となるような生き方を身に付けることなのだと思いました。
トレーニング・プログラム
特化した一つの種目で確かな競技力を習得するには、その前段として、スポーツ全般に共通する基本的な体の動きを正しく身に付けることが必要です。
このトップアスリート育成事業には、それらを学ぶフィジカル・トレーニングの講習もあります。
指導してくれるのは、プロ野球やプロテニス選手も手掛けるという一流トレーナーです。
番組の取材中に指導を担当していた、アスレティックトレーナーの荒井秀幸さんは、次のような内容を語っていました。
「今の中学生の年代で必要なことは、正しい動きづくりを覚えるということです。
高校生やプロ選手は、筋肉を付けるためのトレーニングをたくさんやりますが、今はまだその成長期ではないので、この時期に重たいおもりを持たせるよりは、その準備段階として正しい動きづくりをします。
高校生になって、いざ(筋肉を付けるための)トレーニングを始める際に、正しい動きづくりができておらずそこから入らなければならないとなると、その時点で差が出てしまいます。
そうならないために、まずは今からいい動きづくりを行うということです」
計画的なブログラムを経てアスリートとしての確かな実力を養うために、各段階で一流の専門家が一流の知識や経験でもって指導に当たってくれます。
そのような細やかな全サポートを東京都がバックで行ってくれるというのは、本当に頼もしいですね。
競技別専門プログラム
各種目の実技指導に臨んでくれるのも、過去日本一になるなど輝かしい経歴を持つ一流の専門家やコーチです。
例えば、黒田零音選手が取り組むアーチェリーの指導に当たるのは
・第40回鳥取国体優勝、小野寺長久コーチ
・日本スポーツ振興センター、真境名元司コーチ
・東京都アーチェリー協会常務理事、小杉理加コーチ
といったそうそうたる面々です。
このような充実した環境の中で、都内全域から選び抜かれた少数精鋭のジュニアアスリート候補たちが計画的なプログラムを進めるわけですから、将来のオリンピックや世界選手が輩出しないわけはない!と思いますよね。
実際に、この東京都の『トップアスリート発掘・育成事業』を修了後、浅い経歴ながら大きな大会で成功を収め、近い将来、世界にはばたくことが期待される選手も、下記のようにすでに何人か現れています。
●第68回国民体育大会優勝、自転車の山本修平選手
●第10回全日本女子ボクシング選手権3位、秋山優女選手
●第68回国民体育大会2位、ウエイトリフティングの鈴木健太選手
いずれの選手も、この『トップアスリート発掘・育成事業』に参加する以前には、その種目への本格的な競技経験はほとんどなかったそうです。
このように、東京都の一大プロジェクトは確実に成果を上げつつあるのです。
3.『トップアスリート発掘・育成事業』で選択できる競技種目は何?
最後になりましたが、このプログラムで実際に自分が進む競技として選択できる種目をご紹介します。
上述しましたように、まだ国内で人気の少ないマイナー競技に優れた人材を呼び込み、世界で戦えるアスリートを育てるのがこのプログラムのねらいです。
ですので、好きな競技を何でも行えるわけではなく、次の7種目に限られています。
・レスリング
・ウエイトリフティング
・自転車
・カヌー
・ボクシング
・ボート
・アーチェリー
私たちには普段あまり馴染みのない種目も見当たりますが、やってみて初めて面白さが分かるものもあるのでしょう。
機会があれば、お子さんにもチャレンジさせてみると、案外と才能が開花するかもしれませんね。
コメント 0